影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「様子はどうだ?」

「特に異常は見当たりませぬ」

そう言って頭巾を取る甲斐。

その表情には怪訝さが窺える。

流石に察しがいい。

やはり初代下山甲斐の息子だ。

物事の“変”を読む能力に長けている。

即ち一流の隠密の才をもつという事。

甲斐もまた、わしと同じ異変を察知していた。

「異常がなさ過ぎるのです。このような静かな里山ははじめて見ました。夜活動する筈の動物達の動きが全く感じられない…まるで何かに脅えているかのように」

「お主もそう感じるか」

わしは腕組みする。

忍は自然環境の変化と共に生きている。

物事の“変”というのは、何も人間や戦局に限っての事ではない。

動物達が動きを見せない、或いは極端に活発に動くというのには理由がある。

一つは天変地異の前触れ。

一つは大きな戦の前触れ…。




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