影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

百地

その日は風のない、静かな夜だった。

屋敷を暗くして、僅かに障子の隙間から外の様子を窺う。

静かな夜だった。

いつもならば野鳥や虫の鳴き声が響く里山の夜。

今夜は一切それが聞こえない。

静かな夜だった。

…静か過ぎるほどに。

と。

「!」

天井裏から物音。

「甲斐か?」

「は…」

天井板の一面を外し、忍装束姿の甲斐が室内に入ってきた。

頭巾越しにもわかる。

緊張した面持ちだった。

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