影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

百合

暗闇に紛れて行動を開始する。

音を立てず、しかし素早く。

慣れ親しんだ伊賀の里で隠密行動をする事になるとは皮肉だった。

昨日まで平穏だった里での暮らし。

それが一転して、まさか戦場になろうとは。

それもみな、信長めが侵攻してきたばかりに…!

頭巾の下で歯噛みしつつ、それでも止めなかった足を。

「!」

私は不意に木陰に身を潜め、立ち止まった。

…具足姿の兵士の姿が見える。

五人、六人、まだいる。

言うまでもなく信長の兵だ。

連中は里の方々に散って行動を開始していた。

行動といってもその実、やっている事は殺戮と略奪だ。

向かってくる隠密達を、一人に対し数人がかりで斬りかかり、家の中まで荒らして食糧や金品を強奪した。

まるで夜盗や山賊だ。

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