逢瀬。-あたし達のルール-
「じゃあ、行くわ。」


鞄を右肩にかけて、左手に博愛の手を握って華緒が二人に背を向けた。


「頑張れよ!姉ちゃん頑張れよ」


一樹の震える声が、後ろ髪を引く。


「博愛、母ちゃん頼んだぞ?博愛はしっかり者やから、大丈夫やな。ちゃんと保育園行ってな。」

「うん!」


和也の問いかけに笑顔で応える博愛は、今から自分がどこに行くのかも知らないで、旅行にでも行くような無邪気な笑顔を浮かべている。


『扉が開きます…』


到着した電車の扉が開く。


華緒は何の迷いも無く、一歩を踏み出した。

振り返ればお終いだ。

自分が選んだ道なんだ。

泣いてたまるか。


「博愛、行くよ。」

「うん!」


電車に乗り込んですぐに扉が閉まった。

もう、戻れない。

戻るなんて馬鹿げた事はしちゃいけない。

和也は目を見ない。

一樹は素直に涙を流している。

その様を冷静に見つめている華緒の心は、気持ち悪い位に落ち着いていた。
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