えくすぷれすのすたるじあ
さて、とある夜のこと。
酒場の扉が、ギィと開いた。

場内の何人かが、音の方向に反応する。

が。

すぐにいつもの空気に戻った。
なぜなら、特別な客じゃなかったからだ。

「エム!
 久しぶりじゃないか!」

一人の若い男が、扉を開けて入ってきた男に声をかける。

「どこにいってたんだい?
 黙っていくから心配したんだぞ」

男は、エムと呼ぶ相手に間髪いれず喋りまくる。
エムと呼ばれた男は、黙ってカウンターに腰をかける。
女主人はエムの顔を見るなり、黙ってボトルを差し出す。

どうやら、このエムという男は常連らしい。

鋭い目をしたこのエム、見た感じ戦士らしい。
腰には使い込まれた曲刀が、鈍い光をはなっている。

一方、さっきからエムにまとわりついている男は、エムと比べると小柄で華奢だった。
身なりから察するに、怪しげな呪の使い手か。
その割には、やけに陽気なキャラクターだが。

「……うるせえな」

ふいに、エムが口を開いた。

「先に腹ごしらえさせてくれよ、チムサ。
 後で話すから」


わりぃ。

そう小さな声でチムサがつぶやくと、二人は黙って酒を飲みはじめた。



< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop