レモン

(この人も俊司が座っていたのを見ていたのに。)

そう少し気分を悪くした私は少しきつめに、
「ここ人来ますから。」
と言ってその席を下ろし上に鞄を置いた。


その列には2つ並んで席が空いていなかったので、
そのカップルは少し文句を言いながらも、
通路に戻り私達のちょうど後ろの席に座りなおした。


隣に置いた鞄から携帯を取り出そうとして、
椅子のクッションの所に手を置いた時、
また少し不思議に思う事があった。




ついさっきまで俊司が座っていたその席からは、
普通人が座った後に感じられる温かさを感じられなったのだ。


私は自分の手がおかしいのかもしれないと思い、
じっと開いた手を見つめていた。


気のせいだと思い、
鞄から携帯を取り出し電源を切った。



その時携帯で見た時間は上映時間の5分前に迫っていた。





私は後ろの扉をじっと見ていたが俊司が戻ってくる気配はなかった・・・。


< 55 / 106 >

この作品をシェア

pagetop