神様の飼い猫
天国
 空は、真っ白い雲の上で目覚めた。足下がふわふわしている。雲の切れ目からぼんやり と地上が見えた。ここは本当に雲の上だ。そしてこれは夢ではない。なぜかって、私は もう死んでいるから。記憶はまだ新しい、死にたてほやほやだ。そう、私は死んだの  だ。
「ようこそ、天国へ。」
 何の前触れもなく、その老人は空の前に現れた。
「あなたは、もしかして神様ってやつですか?」
「いかにも。」
 本当に神様だと言う。よく分からないけどここが天国ならこの人は本当に神様なのかも しれない。もうどっちだっていい。死んだのだ、私は。
「そう暗い顔をするな、一度死んだだけだろうが。」
 神様は歌うように言う。まあ所詮、神様にとって死とはそんなもんだろう。
「人間はいつか必ず死ぬ、とでも言うんですか?」
「ちと死人には酷な言い方だったか。すまん、しかし、人間とは生と死を繰り返す生き物 なのだ。死んでもまたいくらでも生まれ変われる。」
 空の目に涙が溢れる。
「生まれ変わりなんて意味がないよ。私は今のこの時代に、私として存在したい!」
「そうじゃろうな、じゃがそれはもうできないのだ。お前は死んでここに居る。」
「わかってるよ! でも・・・」
 それきり言葉が出なかった。わかっている、自分が死んだことももう、地上に戻れない ことも。わかっているのだ、頭では。でも、心はそうはいかなかった、大人になった今 でも。
 海野 空、定年23歳。子どものように泣きじゃくった。
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