記憶の破片
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一度深呼吸をした大和さんはまたいつもの優しい表情に戻っていた。



「俺もね、高校のときに出会えたよ、近藤勇の妾だという人に、それはあくまで俺の勘だけど。でも直感でそう思った」



「深雪ちゃん?」



思わず口を挟んだ私に大和さんは首を横に振った。



「違うよ。彼女を好きなのかもしれないと思ったこともあった。だから付き合った。高校を卒業したあともずっと…」



大和さんの表情を見てるとなんだかきゅっと胸を締め付けられた。


切ない…。



「社会人になって数年経ったころに出会ったのが深雪。出会ったころは深雪はまだ大学生で、俺も彼女とまだ付き合っていたから最初はなんとも思わなかった。…今、思えば思わないようにしてただけなのかもしれない」



大和さんは深雪ちゃんが作ったコルクボードいっぱいに貼られた写真を見つめる。


コルクボードには珠子ちゃんが生まれる前の写真もたくさん貼ってあるのを私は知ってる。



「深雪は近藤勇とはなんの関係性もない。それでも、俺は最終的に前世で愛した彼女よりも深雪といることを選んだんだ」



「…どうして?」



「俺は、近藤勇の記憶を持っていても近藤勇じゃないから。俺はこの時を彼女ではなく深雪と生きたいと思ったから」



とても誇らしげに言う大和さんがすごくかっこよかった。



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