【短編】お願い、ヴァンパイア様
 神崎さんの含みを持たせた言い方に、わたしは首をかしげた。

そして今までみたことのない柔らかい微笑みで、神崎さんの白い手がわたしの顔の前まで伸びる。


「これは?」

 小さな手のひらサイズの巾着。

和柄の古風なかんじが、彼女のイメージとはかけ離れていた。


「あくまで補助剤。そう何度も、あなたを抱えて保健室にはいけない」

 それだけを残して、神崎さんは席に戻っていってしまった。

あのくちぶりからすると、わたしが倒れたときは神崎さんが連れて行ってくれたみたいだ。


 会話が終わると、こそこそと二人は顔を近づけてくる。


「神崎さんと仲いいねぇ?」

「椎名、なにそれ?」

 ここぞとばかりに聞いてくる。

確かにあまり人と接点を持たなかった転校生が、いきなりわたしの面倒を見てくれて、よくわからないプレゼントまで。


 …でも、二人にはまだ話せない。

わたしの気持ちにケリがつくまでは…。


「えへへ~、ちょっとね」

 と、乾いた笑いで誤魔化してみた。


 巾着の口を開くと、そこには錠剤が何粒か入っていた。

補助剤、といっていたから、レンの吸血対策なのだろう。


「……ありがと、神崎さん」

 きれいな髪を初夏の湿った風に揺らす彼女の後姿に、わたしはそっと呟いた。


< 38 / 74 >

この作品をシェア

pagetop