泣き虫Rocker
激しいロックナンバーを弾き終えて、イチキはあっちーよーと叫ぶ。

「お前……、疾走感ゼロだな、おい」

イチキは後ろの機材の上に置かれたタンブラーに寄るとぐいぐいと傾ける。

あぁ、やばいよ。
言わば、あたしだけの特別ライヴ。それもリクエストで弾いてくれた。
声も出ないくらいに感動してる。

それにしても、イチキのあの指の動きは信じられない。
見ているだけで、指がつりそうになる。

「園田ちゃん、今日はどっから見る? 柳さんに席とってもらうよ」

何処からか出てきたスタッフが彼らのギターを受け取って、フリーになった4人がステージから降りてくる。
もう、開場まで1時間をきっている。

彼らは狭い楽屋に戻って、シャワーを浴び、緊張感を味わうのだ。
さすがに、そこにまで入れない。

「今日は、スタンディングで」

今日は、新曲お披露目なのだ。
座って聴くのでは物足りない。Kに続く、疾走感溢れるロックナンバーと聞けば、一番近いところで聞きたい。

そして、あたしは何度でもKishのギタリストに惚れ直す。
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