泣き虫Rocker
「そりゃ、そうだ! ありゃ、最悪な曲だよ」

お腹を抱え大口を開けて下品に笑うイッペーさんと引き笑いで身体をくの字に曲げて笑う井之村さん。
普段、感情の波があまりないジンさんでさえも口元を上げて笑いを堪えようとしている。

「なっ! 園田、あのノリはサイコーだろ」

「乗りたくても乗れないし。イチキも見たでしょ、Rockerが始まったらあたし後ろに行ったの」

言葉を失うイチキ。
その反応であたしの動きを見ていたことが分かった。本当に気付いてるとは思わなかったから、あたしも言葉に詰まる。

「でも、曲はいつものように井之村さんが作ったんだぜ? 俺が詞を書いただけで。的は外してねぇと思ったんだけどなぁ」

ライヴで初めての曲を耳コピするのは難しい。
何度も聞いた曲ならば歌詞がすんなりと頭に入ってくるけど。
それを考えてか、イチキは曲が最悪だと思っているらしい。

やっぱりどこか見当違いな答えにあたしはため息をついた。
さらりと垂れた前髪。耳に掛けようと手を上げ、触れる前に頭に柔らかい体温を感じた。

ヨシヨシと頭を撫でるジンさんの表情はとても穏やかで、……幼稚園児を見るようなほほえましい瞳をしてる。

「まだまだ、遠いな」
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