窓越しのエマ
薄っぺらな水色のガウンを着た男が、奇妙なポーズで座っていた。

やせ細った棒のような脚は内股に閉じられている。

胸の前によせた両手首は不自然な角度に曲げられ、指は不可解な形のまま固まっている。

まるで高圧電流を全身に浴びて、そのまま硬直してしまったようなポーズだ。

半開きの口から糸を引いてよだれが垂れ落ち、首元のよだれかけに黒い染みを作っていた。

虚ろな目は窓の外を眺めている。

一見して、四〇代半ばといったところだ。

この男がまだ二〇代だとは、到底信じ難い。


「あなたも私と同じなの」

エマが僕に話しかけている。


そう、僕は知っている。


「あなたは、あなた自身が創り出した虚像に過ぎないのよ」


目の前にいるこの男は僕だ。

意識の奥に閉じこめていた記憶が怒涛のように溢れ出す。


「これが私の一番大切な人」


そう言ってエマは、車椅子に座る僕の肩に手を置いた。


不意に、左肩に小さな重みを感じる。


右側で見下ろす位置にあったはずのエマの顔が、左側で見上げる位置にある。


「おかえりなさい――」

とエマが言う。


「エゥ、アァウ……」

僕は返事をした。


つまり、今日の散歩の時間は終わりということだ。



< 22 / 31 >

この作品をシェア

pagetop