恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
Act.10 「相手は仲見世小町」
おにーちゃんがおやっさんのお見舞いに行った数日後、その日は暦の上では“大安”の土曜日だった。


本日はお日柄もよく♪

……ってことで、浅草唯一の高層ホテルのロビーで待ち合わせをした、おにーちゃんとやまぶきさんのお見合いがはじまった。


……といっても、はじまったのは予定時刻から50分近くも遅れていた。

あとで聞いた話だけど、これはおっとりとした性格のやまぶきさんが、待ち合わせの時間を30分まちがえて自宅を出発したせいだったんだそうな。


まっ、それでも、白地に可憐な花々をあしらった、高そうだけどケバケバしい感じのしない清楚な和服姿のやまぶきさんをひと目見れば、たとえどんだけ遅刻にキレまくっていた男のヒトだって、すぐに許してしまうんだろうなと思う。

対するこのときのおにーちゃんのいでたちはといえば、さすがにいつものダルダルに伸びきった赤いジャージ姿ではなく、2年前の教育実習初日に着てたのと同じ一張羅(いっちょうら)のスーツ姿だった。


ところで、このときあたしはどこで何をしていたのかというと、実はおにーちゃんたちのお見合い場所のホテルにいて、ロビーの柱のかげに隠れて、ふたりの様子を見守っていたりするんだよね。
< 140 / 263 >

この作品をシェア

pagetop