恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
Act.12 「イヤなツーショット」
7月初旬の週末のこと――

いつものようにメリーヒルズのバイトを終えて帰ってくると、浅草寺の境内は大勢のヒトたちで賑わっていた。

今日は“ほおずき市”が立つ日だ。

その日は観音堂の周辺に、ほおずきを売るお店のほかにも、金魚屋さんや風鈴屋さんなど、古き良き日本を感じさせる風情のあるお店が数多く並び、毎年、数十万人の人手がある。


毎年、ほおずき市が立つと、あたしは“もうすぐ夏なんだなァ……”なんてしみじみしてしまう。

でも商売をやってるウチの親に、あたしをほおずき市に連れて行ってる時間なんてなかったから、小さい頃は毎年おにーちゃんに連れて行ってもらっていた。

おにーちゃんは小さいあたしが人ごみの中ではぐれて迷子にならないようにと、ずっと手をつないでいてくれたし、ほおずきの赤い実を器用に“ぶー、ぶー”と鳴らすおにーちゃんを見てうらやましがるあたしのために、うまく鳴らせるようになるまで何十個もほおずきの実を取ってきてくれたことも覚えてる。

あたしはほおずき市が大好き。


だけど……、


だけど今年は大好きなほおずき市で、すごくイヤなものを見てしまった。

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