恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
Act.13 「暗転の宴」
金曜日になった――

午後の8時といえば、どこの食べもの屋さんでもかき入れどきのはずなのに、浅草は仲見世にあるココ“大政寿司(おおまさずし)”には“のれん”が出ていなかった。


それというのも今夜このお店は貸し切りで、とあるイベントが行なわれていたからだ。

そのイベントとは、やまぶきさんとの婚約を機に“東京メリーヒルズ”を退職して、故郷・浅草に帰ることになったおにーちゃんの送別会のことで、今夜は紫苑さんや白鳥さんをはじめとする多くの同僚たちがこのお寿司屋さんに集合していた。


まぁ、本来の趣旨としてはあくまで“送別会”なんだけど、そのじつ、おにーちゃんの未来の花嫁=やまぶきさんの“お披露目会”としての側面もあった。

そして来るヒト来るヒト、みんながみんな、やまぶきさんをひと目見るなり「きれいなひとですね♪」なんて言うもんだから、彼女の父親=お寿司屋さんの大将もご機嫌で、今夜は大盤振る舞いの食べ放題&飲み放題状態だった。


すでに結婚して夫婦になったかのようにツーショットで寄り添うおにーちゃんとやまぶきさんを中心にして、メリーヒルズのみんなは美味しいお寿司を食べ、ハタチ以上のヒトはお酒も飲んで、大いに盛り上がっているなか、あたしは黄ぃちゃんと並んでカウンター席の端っこのほうに座っていた。

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