1人のお嬢様の願い

─飛翔side

飛翔side


「堂浜飛翔さん…ですよね?」

控えめに。でも、少し戸惑った表情でそいつは聞いてきた。

さっき、教室にいなかった気がするんだけど。


つーか、なんでさっきの奴じゃないだ?
あの…進河??だったか…

『職員室の前にいる、三橋乃さんの所に行ってください。』

いきなり、その女に言われ来たけど……。

意味分かんねぇな。

「はい。よろしくお願いします。」

笑顔で三橋乃とかいう奴に返してやった。

母さんと父さんが離婚してからずっと続けてきた《笑顔》っていう俺の武器。


そんなことを思っていたら、三橋乃っていう奴にガン見されていることに気付いた。


「あの…俺、顔に何かついてますか?」


「えっ?!」


無意識だったのか、そう言われたことに驚いていた。


“三橋乃詩依良”

その女はそう言った。

どっかで聞いた名前…。

まぁ金持ちの奴の名前なんてどうでもいいけどな。


って言っても、俺も…なんだよな…。


ここいる奴は皆。
俺とは違う奴らだと思ってたけど……

皮肉にも、


「同類ってか……。」


「え??何かおっしゃいましたか?」

案内すると言って、前を歩いていた三橋乃がさっきとは違う凛とした声で振り返った。

「いえ……。何でもないです。」

いつもの笑顔でそれに答えた。

すると、三橋乃がほんの少し表情をひきつらせた。

なんて思ったのも一瞬で、すぐに無表情に等しい表情になって前を向いた。


こいつ…今俺の何を見たんだ。


面倒くさがらず、丁寧に案内していく三橋乃の後ろ姿を見ながら思った。


こいつ、俺の何に気付いたんだ。
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