フランシーヌ
ドアノブに手をかけたまま、ジョーは肩越しに振り返る。

ヴァチカンが核で壊滅するという話をしている最中も、眉ひとつ動かさなかった歴戦の強者の表情に、薄く戸惑いが浮かんでいた。

男は、少し言いよどんでポツリと言った。

「娘に…。もう、反対はせんから、戻って来いと伝えてはくれまいか?」

ジョーは、黙って、男の言葉を待った。

「娘の名前は、フランシーヌと言う。昨日、君が狙撃手から護ってくれたそうだな。礼を言う。ありがとう」

「あれは、あなたの政敵が仕掛けたんですか? オレのこと、知ってるみたいでした」

「まあ、そんなところだ」

この男の姿にも、白く白骨化した、そう遠くない未来の姿が浮かんでいる。

ジョーは、ふと、皆が白いドクロと化す死に様とは、どんなものなのだろうと考えた。

少なくとも、戦火に焼かれて黒こげの死体となるわけではないことは確かだ。

「彼女に、伝えます」

静かに言って、ジョーはドアを開けた。
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