恋する旅のその先に

 かくして私たちはときに荒れ狂う人波をかいくぐり──

 店頭販売のお総菜の誘惑には“はんぶんこ”の魔法でやり過ごし──

 天敵ムヤミニホエルイヌの攻撃をなんとかかわしながら冒険を続けた。

 雲は木々の手がビルの向こうへと押しやり、陽はその合間からこちらにチラ見を繰り返す。
 時計はポケットで居眠り。

 自転車のホイールがカラカラと立てる音をBGMにして──

 そうして、ふいと現れたその場所。

 小さな公園。

 誰も利用のし手がいないのか、雑草は生い茂り、数少ない遊具はさびが浮き。

 まるで、人々に忘れ去られた楽園。

 彼はその草の森を悠然と歩み、その眼差しの潔さそのままに奥へ、奥へ。

 やがて、行く手を阻むようにそびえる断崖(フェンス)の前に、彼は一瞬その頂を見つめつつもそこに足をかけることはなく。

 一心に前を見詰めたままその場に、慎重に、注意深く、ゆったりとした動作で腰を下ろした。

 視線の先には純白の一軒家。

 壁も、屋根も、扉も、窓枠さえも。

 それはまるで白亜の城のようで、思わず「ほぅ」とため息が零れてしまうくらいに美しかった。

「あそこに何かあるの?」

 と、問いかけたそのときだった。

 明かり採り用の小さな丸窓の向こうに、白い何かが踊ったのだ。

「な~」

『姫……』

「姫?」

 それは白亜の孤城でひとり、空を見上げ続ける白磁の肌の少女。

 凛とした面持ちでありながら彼女はどこか儚げで、物憂い表情を滲ませている。

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