恋する旅のその先に

 食事に誘うのは直接的過ぎる気がする。

 警戒心は持たれたくはない。

 それはもうワンクッション挟んでからの方がいい。

 さて困ったと頭を抱える男。

 何がいいのだろうか。

 受付でいつも顔を合わせる度に朗らかな笑顔を見せる彼女。

 ある日彼女が油断してあくびをしている所を目撃してしまった瞬間、恋に落ちた。

 男に気付き、顔を真っ赤に染め前髪で顔を隠しながら、

「お、おはようございます」

 といった彼女の姿を思い出す度に、男はくすぐったいような、それでいてひどく衝動的な感情を胸に湧かせる。

 あぁそうだ。

 男はふと思い付いた。

 そうだ、あれはどうだろうか。

──“膝掛け”。

 そういえばいつだったか、冷房がキツいといっていた。

 うん。

 これにしよう。

 これならばさして高価でもないし、実用的だ。

 しかもそれがあることで常に自分の存在を意識してもらえるかもしれない。

 何より、彼女のツラい状況を少しばかりではあるが改善してあげられる。

 男は自分の思い付きに我知らず頬をゆるませた。

 
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