ショート・ショート
看護師
 「同じサイズを色違いでもう一着下さい。」
お金がありあまっている。海外旅行にいく金もあるしいかないけど、洋服は値段を見ずに買うことができる。食事は好きなモノを好きなだけ食べる。今流行のお一人様だが流行になる前からお一人様だった。今も。

貯金は3桁と4桁の間を行き来している。ばかな男に貢いだこともあるが、まだまだ貯金はある。馬鹿な男は体に収まりきらないほどの夢を持っていたが、努力も、才能も、運も、情熱も日々の生活を支える根性も夢を叶える器もなかった。ないないづくし。あるのは健康な肉体と弁の立つ口。それだけでも、ナンパというロマンティックでない出会いだったけど好きだった。私をナンパしてくれただけでもありがたかった。ろくでもない人でも、一人よりはよかった。久々の恋は、彼が私の家に来なくなり終わった。私からは連絡がとれない仕組みになっていた。彼の家には連れてもらえなかった。それでも、一人よりはましだ。

 金や日々を支える仕事をこなす根性はあるが、私には、ないモノのほうが多い。時間がない。彼氏がいない。合コンに向かう気力がない。患者や周囲の人間に与える愛に対し、与えられる愛が圧倒的にない。足りない。


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