ショート・ショート
keitai
私はパパを知らない。
ママは朝早く会社に行き、私が寝る頃か、寝てから帰ってきた。経済的には何不自由しなかったが、私がままと一緒にいれる時間は朝の慌ただしい時間と、ママに用事のない土日だけだった。つまり、ほとんど会うことが無く、まったく愛情を受けなかったのだ。

私は小さい頃から負けず嫌いだった。我が儘で、愛情を受けなかった分、がんばって先生に褒められたくてがんばって、大抵のことは思い通りにしてきた。
けれど、幼稚園の頃、近所のお友達にパパがいて私にはいないことに気がついた。小学校2年で父の日があり私には関係のない日であることを知った。
負い目を感じたわけではないが、さらに負けたくなくなり、なんでもかんでもがんばった。
小三で家にいないママは私に携帯を持たせた。携帯は私とママの関係を変えた。通話に出てくれないママに、私はメールを打てるようになり、家に一人でいるときは、10分ごとにメールをした。ママからのメールが本当に楽しみで嬉しかった。今から帰るよとメールがくると、嬉しくて歓喜のダンスを踊った。どんなときも、いつでも欲しくて欲しくて仕方のない愛は携帯を通じて与えられた。でも、10回打って10回の返事を待っても、返ってくるのは1,2回だ。返ってきた分心底喜び、返ってこなかったメールの分だけ傷つき落胆した。
いつしか、私の小さな体からはみ出す大きな愛は携帯を通さなければ、表現できなくなっていた。受け取れなくなっていた。
私はなんでもできた。かけ算もクラスで一番に覚えたし、リレーの選手だし、班長で、たけしくんも私のことを好いてくれている。その日、学校であったことをメールで報告した。
「ママ!今日、班長になったよ」パパがいなくたって大丈夫!という言葉は打たない。
中学では女子バスケットのキャプテンとして、全国大会にも出場した。
「ママ!試合勝ったよ」パパがいなくたって大丈夫!
彼氏もできた。高校で英語を身につけ、大学ではアメリカに短期留学をし、世間にも名の通っている会社に入社した。
「会社決まった!!」ママは本当に喜んでくれた。パパがいなくたって大丈夫、私は立派に育っている。

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