不良
救急隊が二人やってきた。彼らは死体をみると、警察へ連絡する。「いつごろ、気づかれましたか。」と春男に死体発見当時の事情をきく。十五分ぐらいで警官二人が部屋の入ってくる。警官も同じような質問をする。警官はしきりにメモをとっている。

やがて刑事二人と鑑識班二人が入ってくる。年配の刑事が春男に事情をきく。若い刑事は室内をチェックする。手帳やノートをパラパラと白い手袋をしたままでめくっている。「仏さんは金持ちなんやな。」と現金の束の入ったポーチをあけながらいった。

「死体は解剖にまわすことになります。あんたは、任意同行してもらいます。着替えるのやったら、いま着替えてください。われわれの車で行きます。」と年配の刑事が凄味のある感じをみせた。年配の刑事は、西成署の猛者刑事らしく、短くバリカンで坊主頭にしており、いかつい感じにみえた。春男は両刑事に挟まれる形でパトカーの後部座席に座る。
客扱いはなかった。刑事たちは春男を怪しいとにらんでいた。<やったのかも知れん。>と思い込んでいた。春男はすぐに指紋から前科照会をされる。やがて春男の前歴がFAXで送信されてくる。写真の電送では、右肩から上腕部にかけて、般若の入れ墨がみられる
「おいおい。おまえ勇ましいやっちゃの。」若い刑事がFAX用紙をピラピラさせる。そして、呼びかける言葉は、すでに犯人扱いである。春男は室内が灰色一色の部屋で尋問される。スチール製の折り畳み椅子に座らされる。年配の刑事が机を挟んで向き合う。若い刑事が隅っこで調書の用意をしている

「こら。大城、なにもかも吐いたらどうや。おまえがやったんやろ。」と丸刈り刑事が唾を春男の顔にかけながらいった。春男は手の甲で刑事の唾をふきながら、「なにもしてませんよ。」と年下の刑事に敬語を使うのである。

「マンションの連中は、お前のことをヒモとゆうとるぞ。」「そない、いわれても仕方ありまへん。食わせてもらってましたから。」春男は正直に答える。そうしないと、警察はすぐに自分の身内にまで、尋問の火の手を広げるに決まっていることを経験で知っていた。
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