不良
理恵の死
春男はいつも横に感じる肉布団のような理恵がいないのに気づいた。顔を少しあげて、ベッドをながめる。<便所やろか。>と思い、睡魔に引き込まれて眠りについた。今度目覚めたのは、もう十時だった。陽光がカーテンの隙間から入ってきていた。その光線は部屋の絨毯を焦がすのではないかと思えるほど強烈だった。

便意にせかされるようにして、ベッドから起き上がった。パンツとランニング姿である。床のスリッパを履き、向こうのトイレへ向かう。トイレを明け、スリッパを履き替える。濃厚な小便をながめながら、そのニンニク臭気をかぐ。

トイレの前の風呂場の電気がついてるのに気づいた。ガラス戸が少し開いてる。春男はトイレのドアをしめながら、「おい、いてるんか。」と中の理恵へ声をかけた。しかし返事がない。「寝てるのとちゃうな。」とまた声をかけた。

<もしかしたら。>と春男に不安がよぎった。理恵は心臓に持病がある。ネックレスには心臓病のニトログリセリンを入れた金の容器がぶらさかっている。ガラス戸を向こうに押す。予感は的中した。理恵の白い体が横倒しになっている。

春男は素足で風呂場に入ると、理恵の横に立って、上から背中をみおろした。そして、しゃがむと、テレビでよくみるようにして、理恵の首に指の腹をあてた。しかし、脈のことはよくわからなかった。顔色をみると、真っ白で唇もグレーになっているようにみえた。
<こまった、こまった。>と春男は思い、髪をかきむしった。理恵が持ち込んだらしい、バスタオルを頭から背中にかけて、フワリとかけてやった。尻はむきだしになっている。春男は理恵の横顔もみれなかった。しかし死んでいることには確信を持っていた。それは指先で確かめたとき、首に死人特有の冷たさを感じていたからである。

春男は警察へ電話した。なにをどう喋ったのか記憶にないほど、慌てていた。春男は警察のくるまでベッドに寝ころんでいた。<えらいことや。これからどないしたらええねん>と理恵が亡くなったというのに、自分のこれから先のことばかりを考えるのであった。
< 17 / 37 >

この作品をシェア

pagetop