最期のYou Got Maile
「その顔からすると、覚えてくれてたみたいですね?」
 それはどういう意味?と喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
 聞かなくても解っている。でも、私の頭の中にある常識がそれを受け付けようとしない。
「そんなに難しい顔しないでください。メル嬢が考えている事は合ってます。…そうです。僕があのサイトの運営者です。やっと会えましたね。初めまして」
 差し出された手を、私はしばらく受け取る事が出来ずにいた。
 この、どこから見ても中学生然とした少年が、アダルトサイトの運営者?そんな事があっていいのだろうか?にわかには信じられない事実だったが、状況証拠は揃っていた。
「別に驚く事じゃないですよ。最近じゃ、小学生だってアダルトサイトくらい利用してます。だったら、中学生が運営してたって不思議じゃないでしょ?」
 言われてみればそれも一理ある…。わけがない。どこをどう考えてもそれはおかしい。だいたい、倫理に反している。
「ご両親は知っているの?」
 私の言葉に、彼はあからさまに非難の眼差しを私に向けて、大きく息を吐いた。
「知ってる筈がないでしょう?止めてください。さっきも言いましたが、ルール違反ですよ。それに、あなたに倫理観を問われる覚えはありませんよ」
 彼の言葉は、私の胸に深く突き刺さった。
 確かに、私に彼を非難する資格はない、副業でメル嬢をやっているという事もそうだが、それ以上に、私は自分の利己的な感情を満たすために、この場所にのこのこやってきたのだ。倫理観の話しをすれば、私の方がたちが悪いかもしれない。
 そこまで考えて、私は決心した。
「それで、私と何がしたいのかしら?」
 出会い系で知り合った者同士がやることは決まっている。それは、あのサイトを運営しているという彼なら熟知している事だ。そんな彼が私を呼びだした。これも、答えが見えてる質問だった。
「今日一日、僕とデートしてください」
 彼のその言葉に、私は少なからず安堵の息を吐いた。いきなりホテルへ行こうと言われなかった事に、多少の救いがあるように思えたからだ。
「わかったわ」
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