あいうえおかきくけここいごころ
就業時間を終えて、会社のビルから出る。

窓から何度か外を眺めては、少し降り始めたなと雨の様子を見ていた。

けれど、これは流石に酷いと思う。



まだ走れば何とかなるくらいの雨だったから、急いで帰ろうと飛び出した瞬間。


雨粒が大きくなり、激しくなった。


家に帰ろうとしていた足も、自然と引き返して会社に戻ってきてしまった。


午前中のうちに、コンビニで傘を買おうか迷ってやめた。今となっては買っておけばよかったと心の底から思う。

でも家にはすでに何本もコンビニのビニール傘があるから、もう増やしたくなかったというのが本音。


はぁ、と何度目かわからないため息を吐いて、肩をぬらした雨粒をハンカチで拭う。




「あれ、由紀ねぇちゃん?」

やまないかな、なんてどす黒い空を見上げてはため息を吐いていた。同僚たちは用事があるとかなんかでさっさと帰ってしまった。

タクシーを使うのはもったいなくて、嫌だ。


なんて、ぐるぐると考えていたら、急に声をかけられてとても驚いた。

なじみのない声に、なじみのある呼び方、で。


「……」

でも私は、彼の名前を呼べないでいた。

目の前にいる私の名前を呼んだ彼は、知らない人のようで。


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