あいうえおかきくけここいごころ
沈黙が二人を襲う。
雨音だけが激しく鳴り響き、不思議な感覚。まるで時が止まったような。
「えー由紀ねぇちゃんひでぇよ。俺だよ、昭一だよ」
「え、あ、しょうちゃん」
いとこのしょうちゃん。やっぱり、間違ってなかった。
しょうちゃんは、私が名前を呼ばなかったから忘れられてると思ったんだろうな。
けれど、違う。
忘れていたんじゃない。しょうちゃんとはよく遊んだりしたから、ちゃんと覚えている。
覚えているけれど、その覚えている記憶のしょうちゃんと、今目の前にいる正ちゃんが余りに違いすぎて、とっさに言葉が出なかった。
ちゃんと面影はあるのだけれど、まさか、こんなにも。
「……男前になったねぇ、しょうちゃん」
男らしくなった、というのだろうか。
体も私よりはるかに大きくて、肩幅もぜんぜん違う。
今もう昔みたいにプロレスなんてしたら、間違いなく大怪我じゃすまない……かもしれない。
華奢で小さくてかわいいしょうちゃんのイメージしかなかったから、名前を呼べなかったのも仕方がないと思うんだけど。
「しみじみ言わないでよ。それに、男前とか照れるからやめてよ……かぁちゃんなんて、でかい、邪魔だ、どっか行け、だぜ」
照れるように笑うしょうちゃん。
何だか見たことのない、見てはいけない一面を見てしまったようで罪悪感を覚えた。