生きる
気が付いたとき、辺りは真っ暗だった。
時生は自分の顔に手をやった。
包帯が巻かれている。
きっとここは病院かもしれない。
そして、自分はベッドで寝ている。
ガラスが顔に振ってから、そのあとの記憶がなくなっていた。
近くから、彼女の早坂 葵の声がした。
「大丈夫?ずっと気が戻らなかったんだよ。」
どこにいるか見えなかったが、その声は時生の隣で感じられた。
「あぁ。大丈夫だよ。心配かけたな。」
時生が包帯を取ろうとしたら、葵は慌てて止めた。
「ダ、ダメだよ。包帯を取ったら。手術が終わったらね。」
「手術って……俺が?」
「うん……でも、あっという間の手術だから、大丈夫だよ。」
手術という言葉に、少しの不安が生まれた。
けど、葵を心配させるわけにはいかない。
「手術終わったら、デートにでも行くか。」
時生が笑って言うと、葵はギュッと抱きついてきた。
自分のことではないのに、葵も不安で一杯だった。


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