四季〜二人で歩む季節〜


「あの前の晩も親父が帰って来なくて、母さんは寝ずに待ってたな。
朝早く電話が鳴って、いつものように警察からだったんだ。
ただいつもと違ったのは、親父が死体で見つかったって事。」

「えっ?」

「俺が小学5年の夏に、親父は死んだんだよ。」

「………」


あたしは何も言う事が出来なかった。


レンの横顔は、怒りと悲しみが交錯しているように見えた。


「俺は正直ホッとしたんだ。
母さんを苦しめる親父が許せなかったからな。
…でも、母さんは違った。」


チラッと視界に入ったレンの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「母さんは親父が死んだ事実を受け入れられなくて、精神的におかしくなっていった。
俺の事、直寛さんって呼んだだろ?
あれは親父の名前。
親父が死んでから、母さんは俺を直寛さんって呼ぶんだよ。」
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