サイレントナイト~赤くて静かな夜~
「そうか、ユリちゃん、彼氏が殺されちゃったのか。
それで、ユリちゃんは?」

「わからねえ。
昨日二人が住んでたアパートの前で偶然ユリ子に会ったんだ。
でもあいつ、もろに俺のこと威嚇してきやがったよ。
あいつ、俺に捨てられたと思ってんだ」

八丁堀は、作業の手を止めてオカジマの方を見た。

「そうかい。
ユリちゃんは昔から辛さを口に出せない子だったからねえ。
辛くても、寂しくても、決して弱音を吐かないんだよねえ。」

「弱音を吐かないか…」

「でも気持ちを消化させるのは苦手な子だろ?
だから、やり場のない寂しさや、むなしさをあの子は怒りにかえるんだよ」

八丁堀は、15年間ずっと見てきたユリ子を哀れむように、言葉を続けた。

「宗ちゃん、あんたも無理しちゃいけないよ。
宗ちゃんはずっとユリちゃんの母親がわり、父親がわりをしてきたけど、あんたもまだ18才なんだからね。
重い荷物は、このちょーさんがいつでも肩かして持ってあげるからね」

「ありがとうちょーさん。
もう十分頼りにしてるよ。
オヤジの代の時、不況で工場が大赤字になった時でも最後まで残ってくれたのはちょーさんだもんな」
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