白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
おりしも、松代はこれから種まきの時期であり、内政においては最も重要な時期であった。これをこのような形で無為に過ごすことになりつつあったのである。

これを牢内にて、逐一佐助より報告を受けていた常篤は、一策を投じた。
(やはり、このような事態になったか。)
常篤の最も恐れていたことが現実に起こりつつあった。
(このままでは、私のしたことがまったくの逆効果になってしまう。)
常篤は、諏訪派と呼ばれる家臣たちにまとめて会いたい、と謁見を願い出た。相手は罪人なれど、折も折、彼らはさっそく常篤を引き出して謁見した。
「常篤。用件とはなんじゃ。」
諏訪義正が大仰に構えてものを言う。
「私のことで起きたこの度の藩政の乱れ・・・この常篤、自ら命を絶つことで早く収拾いたしたく存じます。」
おお、と家臣たちから嘆息がもれた。
「しかしの。常篤。お主を斬ったとあっては、もはや松代の民が許さぬでな。そう簡単にはいかぬのじゃ。」
と義正が、まるで反諏訪派の代表のような意見を言う。
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