ほどよい愛
「姫、お疲れ様」

机を片付けていると、慎也が隣にやってきた。
泣きそうな顔、見られたくない。
少し大袈裟に笑って視線を合わせると、高校時代守ってくれた優しい瞳があった。

「慎也もお疲れ様。長かったから疲れたでしょ?」

「確かに長かったな。でも、あの有名な相模恭汰さんと同じ仕事できるなんて二度とないかもしれないしな」

「あはは。慎也も相模崇拝メンバーなんだ」

「まあな。同じ業界にいれば、実力も嫌でもみるしな」

「ふうん」

…恭汰の事誉められると、単純に嬉しい。
私のものじゃなくても、そんな彼の側に今だけでもいる優越感だ。

「慎也くん!」

「え?」

二人して声のした方を振り向くと、会議室のドアから颯爽とこちらに向かってくる女性。

「あ、今村さん」

つぶやきながら軽く会釈する慎也。

「知り合い?」

「あぁ。札幌のホテルの仕事でずっと一緒にやってるんだ」

へえ…。
そうなんだ。

少しずつ近づいてくる今村さんをぼんやり見ながら、私の心がきゅって悲鳴をあげる音を聞いたような気がした。
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