物の気持ち絵本(絵なし)短編集
吊革の気持ち
ガタンゴトン

今日もいつもの音が聞こえる

白と黄色の僕がいる

みんな僕につかまる

みんながつかまるから僕は落ちないように支える

それが僕の仕事

でもたまには休みたい

僕だって疲れるんだ

だからある日僕は休んだ

白い僕も黄色の僕も

だっていいだろ?

人間だって休むんだから

人間はみんな驚いてる

電車から僕がいなくなるのは初めてだろうね

今まで一回も休ませてくれなかったからいけないんだぞ

ガタンゴトン

いつも通り電車は進む

今日も電車は満員だ

ガタンゴトン!!

電車は揺れる

立っている人はよろける

そりゃそうだ

何にもつかまれないんだから

転ぶ人もいる

周りの人にもぶつかる

おばあさんが入ってきた

…誰か席代わってあげなよ

なんて人間は身勝手なんだろう

ガタンゴトン!!!

おばあさんが転んでしまった

立てないみたい

とても痛そう

…僕がいたら…

次の日から僕はまた働く

僕がいないとダメなんだ

毎日毎日大変だけどしょうがない

もう誰もけがさせたくないからね

あっ昨日のおばあさんだ

おばあさんは僕につかまる

「昨日はいなくて大変だったよ。今日はいてくれてありがとうね」

…ごめんねおばあさん

ガタンゴトン

今日も僕はみんなを支える
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