『契約』恋愛

黙って唇を噛みしめるだけの俺に、大志は小さくため息をこぼした。


「それにさ、傷つくことを遠ざけてたって前には進めねぇじゃん。こんなに悩むなんて、風春らしくねーよ。」


…別に傷つくのを遠ざけてなんていない。
ただ、今までの自分、考え方、モットーを裏切るような、そんな“変化”をいきなり受け入れることを躊躇っているだけ。

それに、俺らしくないのなんて今に始まったことじゃない。雪乃と恋愛ごっこを始めたあの日から、もうすでに俺は、自分らしからぬ気持ちをどこかに抱いていたのだ。

うつむきかけ、なおも口を開かない俺に、大志は「それに。」と続けた。そして。


「今ならまだ間に合うかもしんねぇだろ。
だからもう一度、最初からやり直してみれば? …―その、『契約』とかいうやつ。」


紡ぎ出された言葉は、考えもしてなかったこと。 また雪乃とやり直せるかもしれない、俺に向けての“希望”だった。
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