きみと、もう一度



 卒業式を明日に控えた月曜日は、雨。

 起きてすぐ、窓を打ち付ける雨音が聞こえてきて、湿気の含んだ重く硬い空気があった。

 目覚まし時計代わりの母の叫び声が聞こえてきて、部屋の鏡で一度自分の目元を確認する。

少し腫れぼったいけれど、それほどひどくはない。ほっと胸をなでおろしてから、朝食が並んでいるだろう一階に降りていった。

 昨日は、幸登が「さみい」と言って歩いて帰っていったあと、わたしも自転車にまたがって家に戻った。

泣きじゃくった目元に母が少し驚いた顔をしたけれど、わたしがなにも言わなかったので答えにくい質問も飛んでこなかった。

 用意を済ませてコートを羽織ってから、しばらくひとりで時間を潰した。セイちゃんが家に来るまでまだ一〇分以上ある。ずっと落ち着かないせいで、今日はいつもよりも準備をさっさと済ませてしまった。

 もしも迎えに来てくれたら、ちゃんと謝ろう。何度だって謝って、話をしよう。

 だけどもしも、来てくれなかったら。

 また考えてしまう悪い想像を振り払って、ベッドに腰掛けてぎゅっと両手を握りしめた。まだ、仲直りはできるはずだ。


 幸登の言うように、なにがどうなるのかはわからない。けれど、踏み出さなければいけない。だってせっかくわたしはここに戻ってきたのだから。
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