泣いたら、泣くから。


 そう言われた直後、急に姪が遠くに離れていくような錯覚を覚えて、とっさに姪の腕を取った。
 無意識のうちに掴んでいた。

 驚いたように見開かれた目がわたしを見上げる。

 視線がぶつかると同時に息をのんだ。


 掴んだはいいが……ここから、わたしはどうすればよいのだ。


 なにを言えばいい? これという言葉は浮かばない。頭の中は真っ白だ。 
 手を離すタイミングも、わからない。


 困った。


 わたしは腕を掴んだまま、途方に暮れた。
 
 無我夢中で掴んでしまったのは、不意に、姪がここではないどこかへ行ってしまいそうな気がしたからだ。
 胸の奥をかき立てる焦りの感情がわたしの手を勝手に動かした。

 掴んでいる、触れることが出来る今は、ちゃんと姪はここにいると実感できるけれど、この手を離したら、姪は……。



 考えるだけで、指先に力がこもる。離したくないと、思ってしまう。



 離したら、一花は………――――――――――――






 と、姪の指がかすかに動いてわたしの腕に触れた。
 同時に、色素の薄い唇が震えた。



「……私のこと、すこしは女として見てくれた?」


 その質問に、わたしは答えることが出来なかった。
 情けなくも黙り込むと姪は薄く笑った。「最後まで、敵わなかったな」


「なににだい?」
「――……困らせる気じゃないから、軽く聞き流してね。私、あの夜言ったこと本気以外のなにものでもないから。叔母さんにも負けないくらい、私、叔父さんが好き」


 そう言うと、もう一方の手でわたしの手を離させた。

 手のひらに秋の冷たい風があたる。
 風は、異様なほどに冷たかった。







 ―――ねえ、叔父さん。




 
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