泣いたら、泣くから。

一章-9



 しつこくねばってしぶしぶ了解――してくれたのかどうか最後の最後まで微妙だったが、とりあえず日曜日は叔父の家へ押しかけようと思う。


「――行こうね?」
「……だ、だけどわたしは」
「行こうね」
「一花ちゃん……」
「行くの」
「でも……」
「行きたい!」
「……」


 しまいには叔父はなにも言い返してこなくなった。

 無言イコールOKの意味と受け取った私は「ちゃんと着替えて待っててね」と念を押して電話を切った。


 我ながら失礼なやつだと思う。

 怒っていないという叔父の言葉を鵜呑みにして、相手のスケジュールを聞かずに自分のわがままを押し通してしまった。

 本当はまだ怒っているかもしれない――そう思うと胸の奥がちくりと痛んだ。


 叔父は優しい。
 誰かに対して怒りを露わにしているところを、私は一度も見たことがない。


 怒れないタイプ、という人間は世の中にたくさんいる。


 よく言えば優しいやつ。
 悪く言えば、損するやつ。


 叱ることも出来ず、断ることも出来ない――叔父の性格を知っていて力で押しまくる私は相当ひどい人間だ。


 でも、ここは叔父の言った「怒ってない」発言を信じようと思う。……いや、信じたいと思う。


 なんとしてでも私には叔父と共にいる時間が必要なのだ。

 いくら最低な行動だとしても、それで叔父とすこしでも長くいられるのなら私はなんだってする。


 叔母が死んだところを狙って叔父に近づいた時点で、すでに私の地獄行きは決まってしまった。
 今さら私の取る行動が非人道的すぎていても、最終到達点が変わることはない。
 地獄より悪い死後の世界など、ありはしないのだから。


 私は小さく苦笑して顔を上げる。

  
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