ジェネシス(創世記)
翌年、ツルの誕生日に一つの小包が届いた。差出人は、ズボアだ。宅配会社の取り計らいで、一年後のこの日に、小包が届けられた。

その中には、四本の赤ワインが入っていた。六一年前、ツルが生まれた年に、完熟したブドウを醸造した上質なワインだ。ズボアは貴重な年代物のワインを、死ぬ前に酒屋から取り寄せたらしい。

「愛する妻ツルよ、ありがとう。私からの誕生日プレゼントです。ご賞味下さい。あなたと出会えて幸せでした。生まれ変わったら、また結ばれたい」

 そんな、短い内容の手紙が書き記されていた。恥ずかしがり屋のズボアにとって、ツルに対する精一杯の感謝の言葉である。ツルはその手紙を抱き締めては、涙ぐんでいた。

 この手紙をもって、ツルはズボアから愛されていることを悟った。妻としての存在を認めてくれていたことに、心から感謝した。

ツルは、子供たちや孫たちに囲まれて誕生日を祝ってもらい、その赤ワインを美味しそうに飲み干すのであった。それ以来ズボアの家系では、女性を尊敬し敬う一族となった。

「主はあなたを見捨てることなく、家を絶やさぬ責任のある人を今日、お与え下さいました(ルツ記)」

 そんな二人の子孫から、ユダ士族の国王「ダデ」が生まれた。そして遠い将来、救世主「イゼス・クリストス」が誕生するのであった。

●「第六章 ダデの竪琴」に続く。
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