ジェネシス(創世記)
家と言える家はなかった。洞窟で暮らすか、木の下で暮らしていた。雨の日は当然濡れた。泥の上で寝ていた。それが当たり前だった。

 アーべの長男、アダの父親は不治の病で亡くなっていた。アーベの次男ダグは、友人たちと賭けをして神聖なる山に向かった。

「主」が住む「禁断の山」に入山したことで、ダグは二度と帰って来ることはなかった。「主」の怒りに触れて、天罰が下されたのだ。

 主の住む山。アーベは子供の時に、あの山に一つの光が舞い降りるのを見たことがあった。夜空の彼方から一本の筋、尾を引いた光が飛来した。「主」がその山に降りたったとき、大きな地響きを上げて、山全体が光り輝いたようだ。

 それを見た時から、「主」のことを「光あれ」と思ったのに違いない。またその光の線は、蛇のようにも見えたらしい。

以来、禁断の山には、「主」を守るため蛇が居座り、近づく者を食べているのだとアダに語った。

ダグは、その守護神である蛇にきっと食べられたのであろう。その後、私たち民族は「蛇」を守護神として象徴し、崇めるようになった。

 アダが成人した頃、あばら骨を折ったことがあった。その時、懸命に看病してくれたのが、近くに住む部落のイグ(命をつかさどる者)だった。

二人はすぐに恋に落ち、夫婦となった。
 
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