ジェネシス(創世記)
凍えそうな朝、北にある「禁断の山」の頂きに「白い物体」が覆っていた。昼間にはもう、消えていたそうだ。祖先たちはそれを、「主の吐息」だと語った。科学の進んだ今ではそれを、「雪化粧」と呼んでいる。

 アーベは、「春・夏・秋・冬」の「四季」を知った。アーベとアダはそれを毎日、岩肌に書き記(しる)した。

「月」を基本にした一年を、一三カ月とする「暦」が作られた。「太陰暦」だ。それはアーベの長年の観察による賜物であり、それをアダが受け継いだからだ。アーベの功績を受け継がなければ、「暦」は作られることはなかったであろう。

「時を得る人は万物を得る(ディズレリ)」

「時は一切を征服し、我々は時に従わねばならない(ポープ)」

 この島は一年中、温暖な気候に恵まれていた。赤道から、少し上の位置にあるからだ。南の海からは暖流が北上している。

島の北部では、北からの寒流が南下し暖流とぶつかる。つまりこの島は、海流にのってきた魚類たちが棲息する宝庫でもあった。

 アーベたちが住んでいた部落は、森林に囲まれ、野生の果実が実り、木の実にあふれていた。食べることには何不自由することなく、生活は充実していた。

隣の部落とも、特に縄張りを巡って争うこともない。物々交換をしながら、お互いに生計が成り立っていた。

 部落といっても、二0人から三0人くらいの家族の集団だ。婚姻時には、親族や同じ血筋で結ばれることが多々あった。

好ましいことではないが、仕方がない。今とは違い、人口も決して多くはなかった。
 
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