ジェネシス(創世記)
紀元前一二00年頃。ヤブーの三男レレの子孫に、アム(長男)・アン(長女)そしてモズ(次男)なる兄弟姉妹がいた。

レレ族は、司祭や神殿の奉仕をする役職であって、ヤブーの一二士族からは除外されていた。三人の神官は、その頂点とする名誉職であった。

 神官たちは星の動きで、モズの誕生を祝福した。奴隷の身でありながら、神官たちは密かに隠れて結束していた。発覚すれば、死罪になっていたことであろう。

 ヤブーの民から、救世主(メシア)が誕生することを知った国王(エジプト語ではベル・アア。

ギリシャ語ではファラオ)は、慌てて命令を下した。この一カ月の間に生まれた、ラエル人の乳のみ子を殺害せよ、と兵士たちに命じた。

 危険を察知した母ヨーケは、息子モズを、「天然アスファルト」で防水加工したパピルスのカゴにのせて、ナイル川に流した。

 幸いにも、国王の娘ケイトが見つけて育ててくれた。国王や将軍たちには、亡き親友の息子だと偽って、ケイトは養母となった。その様子を姉のアンは、一部始終、遠目から眺めては母ヨーケに報告していた。

 モズは成長し、エジプト国王の一族として、優れた学問を学んだ。学問といっても、もともとラエル人が集大成したものだ。

 ある日ケイトから、モズにはラエル人の血が流れていると知らされた。真実を受け止めたモズは、一時は忙然となった。

けれども、王女の息子としてしばらくは息を潜めた。そんなある深夜、実の母ヨーケと兄と姉の住まいを尋ねて、再会を果たすのであった。

 口下手なモズは、義理の従兄弟のラムセス二世(第一九王朝)には、何かにつけては勝てなかった。モズは不器用で運動能力も、決して良いとはいえなかった。

 モズはある日、ついカッとなってエジプトの軍人を殺してしまった。ラエルの血を引く者であることが国王に発覚され、モズは国を追放されてしまった。

モズは当てもなく、数カ月も砂漠の中をさまよい歩き続けた。それは、脱出するためのルートであることを、この時モズは、理解していなかった。



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