ジェネシス(創世記)
 パレス人との戦いは続いた。戦いに明け暮れて、男性たちの戦死が相継いだ。家族たちの泣き声が木霊した。

もう女性しか、ここで老人子供たちを守れる者はいない。女性が立ち上がるしか、他に方法がない。ケインの土地を守るために、女性たちは剣を握った。

 男性たちは、本当に民族や家族のために戦っているのであろうか。彼らを見ていると、戦闘を楽しんでいるように思える。

闘争本能が、男性たちを奮い立たせているようだ。男性たちは、単純に名誉や誇りを重んじている。名誉のためであれば、後世に名を残すことを望みながら、死を選んでいる。愚か者である。

 女性は、妻たちは、愛する亭主や息子たちが生きて帰ってくることを強く望む。男性たちは、嘆き悲しむ母や妻や恋人たちのことを考えたことはないのであろうか。

男性の下らないプライドに、振り回されたくはない。負け犬でも良い、恥じても良い、ケガを負ってもいいから我が家に帰ってきてもらいたい。女性たちは、ただそれだけを祈っているのだ。

「国、大きくとも、戦を好めば必ず滅ぶ(司馬法)」

「剣で得た国土は剣で奪われる。クワで得た物は永遠である(モンゼン)」

 ディーラは指導力を発揮して、兵士をデラ山の頂上に集結した。敵対するパレス人たちは、最新兵器である「鉄の戦車」を麓に集めていた。

ラエル人の木製の戦車では、勝ち目はない。この「鉄の戦車」を作ったのは、ラエル人だ。彼らの奴隷となったラエルの技術者たちが、困難とされた鉄の鋳造技術を容易なものにしてしまったのだ。

 この断崖のようなデラ山には、登山道は一つしかない。翌日、両者はこの登山道で一戦を構えることになる。ディーラの部下である「ツネ」は、戦法を提案した。

シカは、この断崖を走り降りることができる。ならば馬でも可能なはずだ。軟弱者は去れ。勇気ある兵士であれば、楽々と駆け降りられるはずだ。ディーラは、兵士を奮い立たせた。


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