【詩集】吟遊詩人になる前に
『帰り道』
3回目のアンコールのあと

客電がついた

ライヴハウスを出て

地下鉄の駅に向かう

見上げると、真っ白な満月

秋の終わりの冷たい空気が

革ジャンの下の

熱い心と汗だくのTシャツ
を冷ましていく

地下鉄のホームで

向こう側に立っているスカ
ジャンは

さっきまで、俺の前で拳を
振り上げていた人だ

表情はどこか穏かで

俺も同じような顔をしてい
るのかな

電車に乗って、シートに深
く座り込む

何となくまわりの現実を見
渡すと

サラリーマンや学生たちが

何だか疲れた顔をしている

明日の今頃は

俺も同じような顔をしてい
るのかな

でも、大丈夫…

明日もまた

どこかの街で

あのロックンロールが鳴っ
ているから

俺はがんばれる

きっと、大丈夫
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