ミズイロ
「ありがとう」
初めて。
初めて彼が笑ってくれた。
私に笑いかけてくれた。
それだけで泣きそうだったけど、ここでぼーっとしているわけにはいかない。
「あの、お名前、聞いてもいいですか?」
私、いつもあなたが通る道で水まいてたんですけど、気づいてましたか?
いつもいつも見つめてたんですけど、気づいてましたか?
お家はどこなのかとか、何の音楽が好きで、どこの学校に通ってて、使っている駅はどこなのかとか、そのメガネは伊達なのかとか。
沢山聞きたい事があったけど、私はこの質問を選んだ。
彼はきょとんとした顔をして、鼻をかいた。
「藍田です。藍田惣介」
藍田くん。
彼の名前。
「じゃ」
藍田くんは、笑って小さくお辞儀した。
「あのっ、私は、大和田沙紀といいます。もしよかったら…」