准教授 高野先生の結婚

婚姻届は3月16日に出そうと決めていた。

彼も私も月は違うけれど16日が誕生日だし、なんとなくいいなと思って。

カレンダーを見たらちょうど平日だったし、二人で出しに行くにも問題なし!と思って。

そして――

帰省したのは、その婚姻届に関するお願いごとがあったから。


「母さんがどうしても証人欄にそのハンコ押すって言うなら僕にも考えがあるから」


“証人”

婚姻届には証人という欄があり、成人の誰か二名に記入をお願いしなきゃなのだ。

で、私たちはお互いの“父親”にお願いすることにしたのだけど――


「母さんが邪魔立てするようなら、父さんじゃない別の人に頼むからいいさ」

「あーもう!この子は!つべこべ言わずハンコの一つや二つ押させなさいよ!」

「なんだよ、それ。さもハンコは重要みたいなこと言っておいて矛盾してるだろ?」

「きぃー!チクチクと小っさいことを!」


何故か“お母さん”がはりきっていて……。

しかも、寛行さんとハンコのことでもめているという。


「だいたい、僕が頼んだのは父さんなんだからさ。母さんは引っ込んでてよ」

「ぬぁにぃぃいい!?」

「父さんに書いてもらって、ちゃんとしたまともな印鑑押してもらうから、普通に」

「きぃぃー!この開運印鑑だってちゃんとした立派な印鑑ですぅ~ダ!」

「父さん、この人もうなんとかしてよ」


寛行さん、“この人”だなんてそんな……。

そして、お父さんはというと――


「おや?茶柱がたってるじゃないか」


まるで我関せずという具合に、一人静かに自分で入れたお茶をすすっていたのだった。
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