准教授 高野先生の結婚

窓口の対応というのは実にあっさりしたものだった。

なんというか、これぞ“事務的”みたいな。

そりゃまあ、ねぇ……いちいち盛大に?祝福するわけにはいかないもんね。

職員さんにとっては、毎日まいにち繰り返される“お仕事”なんだもの。

一日にどれくらいの婚姻届を受理するのかは知らないけど。


私たちの用紙には不備が一切なかったようで、婚姻届はすんなり受理された。

今後の諸手続きに必要になる住民票の写しの発行と受け取りを済ませてハイ!終了!


さっさと窓口をあとにして、速やかに車に乗り込む二人。

とりあえずシートベルトはしないまま、彼が助手席の私に向き直る。


「さて、と。それでは――」

「はい!です……」


私も彼にならって出来る限り姿勢を正して向かい合う。


な、なんか……緊張する。


窓口で婚姻届(かみ)出すときは、ずぇんずぇん緊張なんてしなかったのにぃ!


「あらためて、これからよろしくお願いします……僕の“奥さん”」


お、奥さんですと!?

って……まあ、本当に奥さんなんだけど。

それより……なんか“旦那様♪”とか言わなきゃいけない流れになってるし!


「こ、こちらこそ!よろしくお願いいたしますデス!えーと……その……ダ……」


い、言えない……なんか言えないっっ。


そんな照れまくって困っている私を、寛行さんってばおもしろそうに見てるし!


「うん?“ダ”?なに?」

「……ダ……ダーッ!もう!早く!指輪しますよって話ですよ!」


あぁ、なんつう意気地のない“奥さん”なんだろ、私ってば……。


「はいはい。ま、いいさ。夫婦になったばかりだからね、色んな事はおいおいにね」

「うぅ……。もろもろ、おいおいに……」


こんなんで大丈夫なのか?お外でちゃんと“主人が”なんて言えるのか?

まったく、なんてしょーもない……。

もう既に毎日一緒に寝起きしているのに、今さらこんなに照れてる私って!?

あぅぅ、自分で自分がこっ恥ずかしくてしかたがない……。
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