准教授 高野先生の結婚

「そうして君のご両親が君の手を離してくださったから、僕はこうすることができるわけだ」

真横にいる彼の左手が私の右手にそっと重なる。


「手がふさがっていたらさ、つなぐもなにもないからね」

「確かに、ね」


やんわりと緩くつながる二人の手と手。

天井を仰いで互いを見ないまま、私たちはくすりと笑った。


「あのね、いろんなかたちがあるとしたら、私たちの愛情ってどんな愛情なのかな?」

「そうだねぇ、きっと――」

「きっと?」

「こうしてずっと手をつないでいる愛情じゃないのかな」


こうして、ずっと……。

だけど……。


「でも、子どもとか生まれたら真ん中に子どもがくるでしょ?そしたら、一旦は手を離すことになるんじゃない?」


きっと、私の左右にお父さんとお母さんがいてくれたみたいに。


「いや、そうはならないんだよ」


彼がごろんと私のほうへ体を向ける。


「それって、どういうこと?」


私も同じようにごろんして、寝転んだまま向かい合う。


「“かごめかごめ”みたいにまあるくなるからね」

「あー、そうなるんだ」

「そっ」


ちょっと上手いこと言うなぁ、なんて。

不覚にも(?)彼に感心してみたり。


「家族もさ、かたちをかえていくんだよ、きっと」

「輪が大きくなったり?」

「また小さくなったり、ね」

「その小さなひとつの輪のそばに、また別の輪ができたり?」

「そういうこと」



私のお父さんとお母さん。

寛行さんのお父さんとお母さん。

お兄さん家族に、弟さん家族。

そして、寛行さんと私。


私は自分を見守ってくれる家族たちを想った。

そして、彼と私の“夫婦”という新しい小さな家族を愛おしく思ったのだった。





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