しずめの遭難日記

登山

―2月21日―
「なぁ。本気で行くんかい?やめときぃてぇ」
 今日は、雪山登山当日だ。私は、これまでも何度か父と登山を経験しているが、雪山を登るのは初めての経験だ。そんな私を心配してか、祖母は最後の最後まで、父に雪山登山を断念するよう呼びかけていたが、私も父も、雪山登山を断念する気はなかった。
「大丈夫だよ。雪山と言っても、ほら、あそこに見えてる小さな山だし、三日もしたら戻るし…それに、今回はどうしても、三人であの山を登りたいんだ」
 父はそう言って祖母をなだめると、祖母は言い出したらきかない息子に対し、深いため息をついた。
 父は祖母に、今回の登山ルートを説明し、安全を言い聞かしながら、万が一の処置について祖母に説明していた。
 全ての準備を終え、父が荷物を車に詰めると、まだ心配そうな祖母を残して、私達は目的の雪山を目指して走り出した。目的の山までは、車で30分ほどの場所にあり、標高も低い安全な山だ。この山は、昔父がプチ遭難にあった山らしく、私は何度となく父にその話しを聞かされた。
「これが噂の………」
 山の麓に着くと、車から出た女が今更のように、青い空へと延びている真っ白な雪山を見上げた。
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