しずめの遭難日記
「まぁ、素敵な提案ですね!私も見てみたいです!この美しい雪山と海が同時に見られたら、それはそれは素晴らしいでしょうね?」
 私の意見に同調して、女も声を弾ませる。二人の愛する家族に期待の眼差しを受けては、父も「うん」と頷くしかなく、私達は急遽予定を変更して、以前父が海を見たという山の頂上を目指した。
 おぼろげな父の記憶を頼りに、私達はッ山を幾つか越える。途中、強い風が氷の結晶を運んで、それが太陽に照らされキラキラと光り輝く現象が見れた。いわゆる、ダイヤモンドダストである。私がその事を女に教えて上げると、女はまた子供のようにはしゃいだ。
 いったい、幾つの山々を越えただろう?何度かそれらしき山の頂上には辿り着いたが、父がいうように、海まで見渡せるような景色はどこにもなかった。父は、もっと高い山を登ったのかもしれないと首を捻りながら、地図を片手に真っ白な雪道をひたすら進んだ。しかし、それからまた幾つもの山を越えたが、海の見える景色に会える事はなかった。
「う~む。小さい時の記憶だからなぁ…。雪の斜面が空の色を反射して青く見えただけなのかも………しかたない。もう一度出直すとするか?」
 太陽が西に沈みかけ、白い雪肌が紅に染まり始めた頃、だいぶ息が上がっている私と女を気遣って、父がそう提案した。
「私は海が見たい!」
「せっかくここまで来たのですもの。もう少し頑張ってみません?」
 この所、私と女の意見が合うので少し腹立たしいが、私も、ここまで来たら後には引けない。何が何でも、この雪山から海が見たいのだ。
「ねぇ。お父さんが行った山って、あの山なんじゃない?」
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