しずめの遭難日記
白い美しい悪魔
  ―2月28日―
 昨日はとても幸せでした。
 初めて『お母さん』と言ってもらえて、正直涙が出るほど嬉しかったです。
 しずめちゃんが、どんな気持ちでその言葉を言ってくれたのか…。あるいは私の事を気遣って言ってくれただけなのかもしれません。
 しずめちゃんは、もう気付いていますよね?私が食べ物を探しに外へ行くと言った理由。残りの食料は、テーブル代わりに使っている岩の上に全て置いておきました。それから、もうすぐ火を焚く燃料もなくなりますので、防寒着は置いていきます。まずは暖かくして、そうすれば、あと二、三日は持ちこたえる事ができるでしょう。大丈夫、きっと鍛治さんが助けを呼んで戻ってきてくれます。
 それから………。
 それから、本当に身勝手なお願いなのですが…。もし、私が無事に食べ物を見つけてここに戻ってくる事ができたら、もう一度、あの言葉を言ってください。一度だけでいいんです。しずめちゃんに一度でも『お母さん』と呼んでもらえただけでも、もう充分なのに、それ以上を望むなんて、私は欲張りですね。でも、もし叶うのなら、せめてもう一度だけ、その言葉が聞きたい。
 それでは、この文章を読む頃には、私はしずめちゃんの近くにはいません。しずめちゃんを一人にしないという約束を破ってすみません。でも、私にはこうする以外、良い考えが浮かばなかったのです。愛するしずめちゃんには一日でも長く生きていて欲しいのです。身勝手な私をどうかお許し下さい。最後だから、もう一つだけ、我が儘を言わせて貰います。
 しずめちゃん、貴方は私にとって最高の娘です。もっと、しずめちゃんとお話がしたかった。もっと、側にいたかった。もっと…。言い出したら切りがありませんね。
 それでは、行ってきます。
                              神楽
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