世紀末の恋の色は
冬の雷が夜を切り裂く。

その激しい音に、レナはベッドから跳ね起きた。


「は……、夢、よね」


掛け布団がずるりと落ちて冷えた夜気が彼女を苛むが、その震えは寒さからではない。

恐怖。

吸血鬼に見つけられた、つい三日前の夜の夢。

ただひたすら怖く、恐ろしく。

一晩がかりで漸く身に着けた『余裕』の仮面を被らなければ、彼女の心は壊れてしまっていたかもしれない。

あるいは何もかも嘲笑っていなければ、彼女の中の暗い感情を押さえることも、可能だったか否か。

吸血鬼という外なる恐怖と、殺す、と言った己自身に対する内なる恐怖は、レナの心を捕らえてしまって放さない。

堪らず、レナは燭台を持つと、何処かへ行こうと廊下への扉を開ける。

だが一体何処へ行こうというのか。

幸いにして廊下には蝋燭が灯っており、不幸にしてレナはその道を外れることができない。

何が出て来るか分からない屋敷も、これからどうなってしまうか分からない自分も、全てのことが恐ろしくて、彼女の視界がぼやける。

目的もなく蝋燭に導かれて歩いて行く様は亡者にも似る。

ならばその手を引く恐怖は、そのまま彼女を冥府に引きずり込むのだろうか。



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